ビートルズのリミックスアルバム「Beatles 1」について

ビートルズのリミックスベストアルバム「ビートルズ1」が発売されました。幾つかの企画物を除けば初のリミックスベストという事で世界的に好調なセールスを記録しています。五十年前のバンドの新作ベストアルバムが未だに現役アーティストより商売になるのですから、やはりビートルズは怪物です。さて、ビートルズの活動期はモノラルからステレオへの移行期だった為に、「ステレオミックスの概念が確立されていない時期のステレオ」で多数のオリジナル音源が残されました。これらはステレオ感を強調し過ぎた為に、バッキングと歌をLRに完璧に振り分けたり、センターに何も音が無かったりと、ありえない定位でミックスが施されています。こうしたミックスはヘッドホンで聴くとLRがダイレクトに左右の耳に届く為、気持ちの悪い聴感となります。当時は今ほどヘッドホンやイヤホンで音楽を聴く習慣が無かったので大丈夫だったのでしょうが、現代のリスニング環境では違和感を感じます。今回のミックスはそうしたリスニング環境の変化も考慮したのでしょう。極端なLRの振り分けもなく、全体にボーカルを中心に定位させた聴きやすいミックスになっています。音圧も上がり、ビートルズマニアの私としては、大変嬉しいアルバムです。ですが、今回のリミックス版「ビートルズ1」には、明らかなミキシング・ミスが少なくとも三か所あります。まず、「ジョンとヨーコのバラード」の一分四十二秒でジョンが「Think!」とシャウトして全ての音が一斉にストップする箇所で、ピアノの音を八分音符ひとつ分消し忘れています。この為に何とも締まりのないブレイクになり、ハッとする効果は明らかに失われています。続いて「デイ・トリッパー」の二分三十二秒で、本来無いはずの「イエー」というコーラスが消し忘れて残っています。しかも「イエー」ですらなく、中途半端な音量で「イエ」一瞬のみなので余計に目立ちます。まるでビートルズがコーラスの構成を忘れて歌い間違えたかのようです。続いて、「エイト・デイズ・ア・ウィーク」のエンディングでのリンゴのタムに余計なディレイ、もしくはタムのデータを二重に貼りつけた為に、本来のリズムと全くタイミングの合っていないデタラメなドラミングとなっています。リンゴは決してこのような意味の無い無駄なドラミングはしません。いずれも音楽的に正しくないので、意図したミックスだという言い訳は通用しません。ビートルズの音を扱う以上はお前ら死ぬ気でちゃんと仕事しろよという話です